車いす(慢性脊髄損傷)のわんちゃんの治療
犬の胸腰部椎間板ヘルニアハンセンⅠ型の神経学的グレード5の過去の治療成績の論文報告(0%-76%)の歩行回復率は平均約56.5%である。すなわち、罹患犬の半分は歩行ができるようにまで回復、半分は歩行回復せずが現状です。
犬の胸腰部椎間板ヘルニアの治療は、1950年代前半から片側椎弓切除術、背側椎弓切除術がおこなわれてきました。背骨の一部分を削り取り、脊髄の通り道である脊柱管に飛び出してきた椎間板物質を除去するという術式です。約60年間、この治療方法がおこなわれてきました。5段階のグレード分類における神経学的グレード4までであれば過去の論文報告においても、この治療方法で90%以上が歩行回復に至っています。
問題は、神経学的グレード5です。従来の外科的治療では、半分の罹患犬は歩行回復しません。すなわち、椎間板物質が脊柱管内に飛び出してきた時に脊髄に接触したときの衝撃力が強く、脊髄損傷が重度であることが想像できます。単純に脊柱管に飛び出してきた脊髄を圧迫している逸脱突出椎間板物質を除去する従来の外科手術をしても約半数の症例で麻痺した肢は治りません。
1900年前半のノーベル賞受賞神経学者Cajal は、中枢神経(脳や脊髄)は再生しないと報告しています。Cajal は、1928年にウサギを使った実験などを論文にまとめています。
神経学的グレード5の治療は、損傷脊髄の治療への挑戦といえます。。。偉大なる科学者Cajalへの挑戦です。
グレード5の治療後、歩行回復に至らなかった場合、脊髄損傷は慢性期脊髄損傷へと移行します。
犬の慢性期の損傷脊髄は、グリア瘢痕や嚢胞、空洞形成などにより神経の再生が困難となります(神経の再生と機能再建 1997年)。
2010年、2011年の獣医麻酔外科学会(大宮)、日本獣医学会(帯広)、日本再生医療学会(東京)、獣医内科学アカデミー(横浜)と当医院でおこなっている犬の急性期脊髄損傷の脊髄再生医療の臨床効果について発表してきました。現時、椎間板ヘルニア神経学的グレード5においては外科的治療直後(急性期脊髄損傷)に再生医療をおこなうことで約90%(現状、n=36)の歩行回復成績となっています。従来の外科的手術に比較してかなり高い歩行回復率です。(現在、再生医療の国際誌に投稿中)
慢性期脊髄損傷に対しても治療(現状、n=5)を開始いたしました。2~3年間、車いすを使用してLMNSをていしていたのに脊髄再生治療後にUMNSとなり、体性感覚誘発電位(電気生理学的検査)の結果も波長測定が可能になるまで回復している症例(5頭中3頭)も60%です。(一部、2010年12月に獣医麻酔外科学会にて報告)
2009年、インドのKumarらは我々と同じ骨髄由来の細胞を使った脊髄再生医療の論文報告しています。297名の慢性期脊髄損傷患者で車いす利用のヒトに対する治療成績です。論文では、約32%の方に神経学的改善が見られすべての症例で有害事象は認めたれなかった結果報告をしています。
当医院での脊髄再生医療は、京都大学医学部名誉教授井出千束先生、京都大学医学部臨床教授鈴木義久先生、京都大学再生医科学研究所准教授中村達雄先生のご指導、ご支援と日本獣医生命科学大学獣医外科学教室多川正弘教授、原田恭治講師のご指導、電気生理学的検査では奥野征一先生にご協力いただきおこなっております。
開業医と大学院での脊髄損傷、脊髄再生の研究と、私の休みなし生活もまもなく2年半となります(2011年8月現在)となりましたが、自分自身に課したミッションを終える日まで挑戦は終わらせないつもりです。。。小さな力ですが頑張ります。
足の麻痺をかかえる犬猫と生活されている飼い主様へ...決して飼い主様が諦めないでください。
2011年8月14日
愛甲石田動物病院 院長
日本獣医生命科学大学大学院 獣医生命科学研究科博士課程3年
財)田附興風会医学研究所北野病院 客員研究員
藍野大学再生医療研究所 客員研究員
田村 勝利



